折に触れて
東京を出るときいつもこの駅にまつわることをにわかに思う
公園の向こうの端から迫り来る夜に取り込められようとする
雪ならば雪が隠せることもありその間に育つ夢の芽もあり 雪は豊年の予兆と考えた歴史は長い。科学的見地からしてもまんざら誤りとは言えぬらしい。家持の歌を引くまでもなく、雪は特別な思いを抱かせる。
殆どを使い果たしたあとだから私は何かを言いたくなるの
大雨が削る何かを痛みとし運ぶ何かをかすかに願う
何ものと知らぬかたちの目の前に立ち塞がれど払うすべなく
どこまでも続く住まいの壁と屋根通勤電車は駆け抜けていく
砂浜の続く浜辺の向こうには常波洗う岩礁浮かぶ
どこからか描けばよいのか坂道の向こうに広がる迷彩紅葉
何回も塗り直された風景画デッサンの後すすきの穂波
大物が釣れたと喜ぶ表情にいくらでもあるその裏話
流れ込む熱気の筋は山削り川走りゆく繰り返しゆく
自らの居場所がいかなる沼沢か知らぬ子孫の哀れ人生
新しいウイルス防ぐマスクなどないとは知るもなければ惑う
いつまでも回り続けるトリコロール何かを変えるためのスクリュー
作っては壊し続ける生業を無駄と言わずに芸術と呼ぶ
憎しみのその根本を尋ねると自分に似ている何かが渦巻く
繰り返す喜怒哀楽の波の上漕ぎゆく船の路の遥かに
武器を取れ社会に決して負けるなと言った論者の早世悼む
いつからか丘から見えぬ人たちと話せるような夢をみている 森の中すみかはおそらくまだ暗く里の騒ぎは届いていない
涼風の身体に浸みる朝となり旅の途中の空の高さよ
誰もかも同じ舞台に立つ役者幕が上がれば演じなければ
古も現在の暮らしも高みから見れば愛しいちさき点景
蓮花の咲く池端の静かさを求めてここにこの夏も来た 問うほどに沈黙の色漂わせ薄紅に蓮の花咲く
風前の灯火暗くなってゆく昔は昔今も昔に
いかほどの怒りがあるか増長天踏みつけられし邪気の哀れさ
恐らくはひとかけらほど異なれば別の世界に着くのであろう
繰り返す日々の中には次の日の種になるもの飛び交っている
残り一年元号変わる時までにできることならしてしまいたい
繰り返すことを愚かと思うまで人の営み軽くなりゆく