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歌帳

日々の思いを歌にこめて

折に触れて

鏡の前で

思い切り悪ぶってみる所詮ただ何をやっても私は私 敵役然として顔引きつらせ人には見透かされまい私 鏡面に映し出される姿をば自分自身と信じてはない おそらくは自分自身もわからないそれが自分の姿というもの

ゆく人くる人

ゆく人にかける言葉を探すうちにくる人のため用意が進む

悪ぶって

しらじらしく落としどころを決めてなどのたまっている人の危うさ 思い切り悪ぶってみるそれだけが今の自分の形とあらば 横書きの青春などといいさして実はなんにも考えてない

さりぎわ

去り際に流れるしらべ曲名を思い出せないままリフレイン

最後の音

とりわけて最後の音を推し量る我が日常の隙間の闇で

いつもの席

新しいことを始める勇気さえ持てない時はいつもの席に この席の前に広がる光景の輝きさえも見えなくなって 知らぬうち決められている次の手もその次の手もさらに次をも 暖かいいつもの席を捨て去っていかねばならぬ時は来たりぬ

まもなく

ホームでは少し迷子になってみるまもなく急行出発するが

晴着

振袖をぎこちなく着て微笑んで化粧の過ぎる教え子に会う いろいろとつらいこともあるんです。さらりと言った教え子二十歳 それだけが人生なんじゃないんだと言おうとしたが言い切れなくて 大学は面白いんですという声のあまり弾んでいない気がして

言い訳

いくつもの言い訳並べ並べ替えそうしてここまでいきてきたんだ

始業

これまでに何度の始まり迎えてもその都度震える右手左手

逃げ水

少年の日は遠くなり田園の向こうの道の果てに逃げ水

認めない

自らの衰え決して認めない私は老いることも忘れる

夏風邪

懸命に働いた後夏風邪の仕打ち加わる、受けて立とう!

向こうの電車

反対の電車に乗っている人のなぜか気になる視線の先が

もつれたら

もつれたらもつれたままのあり方を大切にする生き方もある

積極的回顧

往年のスターの歌う青春を挙げる拳で取り戻しゆく

傘の行方

あの夜に忘れた傘に貼りついた木の葉と君が忘れられない

火星接近

南東に火星は赤く輝いて我が日常を揺さぶろうとするおそらくは吉凶何れも先触れて赤い惑星最接近の夜我がために光るにあらずただ物質の振る舞いとは知る今更に天動説を信じたくなるほど不安な夜星赤く

夕景

変わりゆく夕景今日の一日が意味を持つまで見つめていたい

日常

形なき思いの満ちた肉体を満員電車にねじ込んでいく

気圧の変化

どこからか引っ張られてでもいるような頭痛が襲う低気圧来る

梅の花咲いた坂道下がりつつ明日のことはいま考えず

公園にて

少女らが回り続ける円形の噴水池の水は動かず

雪降って潤い戻る朝の町電車は速度上がらないまま

乾いたそら

何万年後の乾いた空の下我が同族の涙は何色

コート

生地厚のコートの重さ感じつつ確かめている今日の自分を

年末

とりあえず丸めて畳んで目につかぬ場所に隠そう年末だからできたことよりもはるかに終わらないことの多さは言うまでもなく捨てなさい忘れなさいという声を悪魔の声として聞いているガラクタを積み上げたものそれこそが己の性と言うべきものよ

乗り過ごし

一本の電車を敢えて乗り過ごし次の世界に賭けてみようか

残りかす

燃え尽きたはずの心の残りかす燻っている確かに奥で

秋雲

坂道を駆け下りていく自転車のブレーキの音空に秋雲

秋空に

秋空に投げ出してみるなけなしの私の抱えるあれやこれやを

夕景

暮れていく港の空に一日のまた人生の名残漂う

恋歌4首

気がつけば同じ風景見続けて今日まで生きたこれからもまた 次の手もその次の手も知り抜いているから無口になることもある よく見せる仕草は僕を真似たものそれとも君を真似たのは僕 緊張をすると思わず口に出す条件反射のように君の名

斜め上向く

斜め上向く君は少し目を大きく開くその時が好き

掛け違い

ちょとした思い込みから掛け違い歩調も話も合わなくなるの

こぼれる

結ぶ手を固くしようと力いれ思いを込めればなおこぼれゆく

怒声

雑踏の中からあがる怒声には崩れる前の予兆の気配

国技館

とりどりの幟はためく国技館それに憧れている若力士整っている顔あり幼顔もあり関取となる顔はどの顔

クレマチス

クレマチス広げる花びら伸びやかに忘れかけてたあの日に誘う

なぜ

繰り返す「なぜ」をとどめて成長という大人らの内に我も含まれ世の中は疑問だらけであることは知っているのに知らぬふりするとびきりのはてなを持てる嬉しさを教えてあげよう若いあなたに毎日を当たり前という毒に麻痺させていることに目覚める

年度末

やり残す仕事の多さ悔いる間もなく去る弥生晦の空新しい職場に行くという人のために桜はすでに九分咲き

早春の公園

早春の公園歩く抱え持つ荷物の重さ暫し忘れて

春分

昼長くなり行く日々に耳鳴りの如く囁く白髪の我

売れ残り

街角の小さな店に売れ残るおもちゃの箱の褪せたる写真

答え無き

答え無き会話に耐へることできずとつくにこころ抜けだしてゐる 限りなき退屈といふ時重ね家庭の平和は保たれてゐる

地中の魂

いまだ土の中に潜める魂の目覚める時ぞ心して待て

単語カード

繰り返しめくるカードに書かれたる単語を使ふ時やいつ来る

別の物語

父の歌 もう一冊と娘がせがむ絵本には同じ結末待つと知らずや 娘の歌 結末が同じと誰が決めたのよ読むまでそれは分からないのよ

大阪城

外堀も内堀だにも埋められて大阪城はビルに囲まれ

あと何歩

あと何歩進めば次の平なる所に着くか今は進まん