歌帳

日々の思いを歌にこめて

折に触れて

フィルター

真実を見ている気持ちになりつつも眼鏡の曇り気にしてもゐる

油蝉

路上にて拾ひし蝉を手に持ちて橋渡り来る老婆過ぎゆく 油蝉はかなき生の尽きるまで鳴きに鳴きゆき死にに死にゆき 空蝉を集める子供満杯の虫籠の中動かぬ形 瞬間を観る事なかれ命つぐその中にこそ悲しみもあれ

逃げて

今といふ枷から逃げて行く先は見慣れた狭い穴蔵の中

別の電車

切り替えて別の電車に乗ることをためらつてまた乗る日常に

積み木の上

早朝に地震速報鳴動し凍りつきたる淡き日常毎日の積み上げきたる生業を瞬時に崩す地震といふもの禍々し神の来りて笑みたるかそも愚かなる人の迷ひか気がつけば積み木の上に生きてをりそを人生と人は言へるを

風神

列島を覆ひ尽くせる台風の目やは見るらむ人の小ささ係争のありやなしやは知らねども孤島も嵐に巻き込まれつつ風神の現れ出づる禍つ神吹き飛ばさるは善と限らず

青い光

終点に向ふホームの端照らす青き光の冷え冷えとして

可能性

いくらでも変わりうる我が可能性信じることを支へにしたり

手習

何のため手習などを始むると自問自答の日々は続きぬ恐らくは成長のなき毎日に倦みて疲れて手習に逃ぐ目的は恐らくはなしあるならばそは自らの生の確認生きている証にせんと今日よりは違ふ何かを明日に求む

老後

美しく老いる術とは何なのか自己撞着の罠に落ち込む老いる術書きたる本の平積みの嘲るごとく笑む著者の顔恐らくは死ぬ間際にて悟るべしいかに生きるかいかに過ごすか標なき細き径を歩み行くつひに歩けぬ時となるまで

天動説

結局は自分の位置からしか見えぬ世界は天動説のまま過ぎ行ける 細々としたこと争ふ愚かさとおそらく思はむ例えば神は 同じくは諦めるより明らめて世界を固定せんとあがけり 自らの位置さえ知らぬものゆゑに動くは天かそれとも我か

タイル

様々な模様のありて並びたるタイルのごとく流れ行く時

新緑

生命の栄えゆきたる新緑の中にも差せる淡き面影

かすれ声

かすれゆく声をいとはず言ひゆかん伝えることの尽きぬ限りは

年玉

年玉を渡すものなきつれづれを親にさせたる心の痛み

生活の外縁

それぞれの暮らしの外輪示しつつ人は生業積み重ねゆく

嵐の前

混乱と破壊の前の静けさよ運命論など考えてをり

コマ送り

様々な人の過ぎ行く胸のうちコマ送りする遠き思ひ出

思い出の晩夏

宿題の工作作るぎこちなき手を助けたる父をば思ふ

遥かな夏休み

皇帝のごとく遊びし少年の夏の日の夢草いきれ立つ

朝の決意

新鮮な朝の陽射しに立ち向かふ小さき肩よ進めよ進め