折に触れて
少女らが回り続ける円形の噴水池の水は動かず
雪降って潤い戻る朝の町電車は速度上がらないまま
何万年後の乾いた空の下我が同族の涙は何色
生地厚のコートの重さ感じつつ確かめている今日の自分を
とりあえず丸めて畳んで目につかぬ場所に隠そう年末だからできたことよりもはるかに終わらないことの多さは言うまでもなく捨てなさい忘れなさいという声を悪魔の声として聞いているガラクタを積み上げたものそれこそが己の性と言うべきものよ
一本の電車を敢えて乗り過ごし次の世界に賭けてみようか
燃え尽きたはずの心の残りかす燻っている確かに奥で
坂道を駆け下りていく自転車のブレーキの音空に秋雲
秋空に投げ出してみるなけなしの私の抱えるあれやこれやを
暮れていく港の空に一日のまた人生の名残漂う
気がつけば同じ風景見続けて今日まで生きたこれからもまた 次の手もその次の手も知り抜いているから無口になることもある よく見せる仕草は僕を真似たものそれとも君を真似たのは僕 緊張をすると思わず口に出す条件反射のように君の名
斜め上向く君は少し目を大きく開くその時が好き
ちょとした思い込みから掛け違い歩調も話も合わなくなるの
結ぶ手を固くしようと力いれ思いを込めればなおこぼれゆく
雑踏の中からあがる怒声には崩れる前の予兆の気配
とりどりの幟はためく国技館それに憧れている若力士整っている顔あり幼顔もあり関取となる顔はどの顔
クレマチス広げる花びら伸びやかに忘れかけてたあの日に誘う
繰り返す「なぜ」をとどめて成長という大人らの内に我も含まれ世の中は疑問だらけであることは知っているのに知らぬふりするとびきりのはてなを持てる嬉しさを教えてあげよう若いあなたに毎日を当たり前という毒に麻痺させていることに目覚める
やり残す仕事の多さ悔いる間もなく去る弥生晦の空新しい職場に行くという人のために桜はすでに九分咲き
早春の公園歩く抱え持つ荷物の重さ暫し忘れて
昼長くなり行く日々に耳鳴りの如く囁く白髪の我
街角の小さな店に売れ残るおもちゃの箱の褪せたる写真
答え無き会話に耐へることできずとつくにこころ抜けだしてゐる 限りなき退屈といふ時重ね家庭の平和は保たれてゐる
いまだ土の中に潜める魂の目覚める時ぞ心して待て
繰り返しめくるカードに書かれたる単語を使ふ時やいつ来る
父の歌 もう一冊と娘がせがむ絵本には同じ結末待つと知らずや 娘の歌 結末が同じと誰が決めたのよ読むまでそれは分からないのよ
外堀も内堀だにも埋められて大阪城はビルに囲まれ
あと何歩進めば次の平なる所に着くか今は進まん
真実を見ている気持ちになりつつも眼鏡の曇り気にしてもゐる
路上にて拾ひし蝉を手に持ちて橋渡り来る老婆過ぎゆく 油蝉はかなき生の尽きるまで鳴きに鳴きゆき死にに死にゆき 空蝉を集める子供満杯の虫籠の中動かぬ形 瞬間を観る事なかれ命つぐその中にこそ悲しみもあれ