折に触れて
立ち並ぶビルにあまたの窓ありて閉づる人あり開く人あり
着ぶくれた日々に慣れつつ歩きゆく我が道遠く続く坂道
おそらくは声にならない声を出し愛を歌っているのであろう
行動や嗜好やその他もろもろをポイントにして売り渡していく
人も物も時間の底に沈みゆくそれに逆らう営みもあり
箱庭の中で毎日過ごしゆく自分の姿ふと湧き上がる
どこまでも虫の音響き澄んでいく心に映る古の町
誰かには大切な場所に違いないありふれているこの駅前も
思い切り悪ぶってみる所詮ただ何をやっても私は私 敵役然として顔引きつらせ人には見透かされまい私 鏡面に映し出される姿をば自分自身と信じてはない おそらくは自分自身もわからないそれが自分の姿というもの
ゆく人にかける言葉を探すうちにくる人のため用意が進む
しらじらしく落としどころを決めてなどのたまっている人の危うさ 思い切り悪ぶってみるそれだけが今の自分の形とあらば 横書きの青春などといいさして実はなんにも考えてない
去り際に流れるしらべ曲名を思い出せないままリフレイン
とりわけて最後の音を推し量る我が日常の隙間の闇で
新しいことを始める勇気さえ持てない時はいつもの席に この席の前に広がる光景の輝きさえも見えなくなって 知らぬうち決められている次の手もその次の手もさらに次をも 暖かいいつもの席を捨て去っていかねばならぬ時は来たりぬ
ホームでは少し迷子になってみるまもなく急行出発するが
振袖をぎこちなく着て微笑んで化粧の過ぎる教え子に会う いろいろとつらいこともあるんです。さらりと言った教え子二十歳 それだけが人生なんじゃないんだと言おうとしたが言い切れなくて 大学は面白いんですという声のあまり弾んでいない気がして
いくつもの言い訳並べ並べ替えそうしてここまでいきてきたんだ
これまでに何度の始まり迎えてもその都度震える右手左手
少年の日は遠くなり田園の向こうの道の果てに逃げ水
自らの衰え決して認めない私は老いることも忘れる
懸命に働いた後夏風邪の仕打ち加わる、受けて立とう!
反対の電車に乗っている人のなぜか気になる視線の先が
もつれたらもつれたままのあり方を大切にする生き方もある
往年のスターの歌う青春を挙げる拳で取り戻しゆく
あの夜に忘れた傘に貼りついた木の葉と君が忘れられない
南東に火星は赤く輝いて我が日常を揺さぶろうとするおそらくは吉凶何れも先触れて赤い惑星最接近の夜我がために光るにあらずただ物質の振る舞いとは知る今更に天動説を信じたくなるほど不安な夜星赤く
変わりゆく夕景今日の一日が意味を持つまで見つめていたい
形なき思いの満ちた肉体を満員電車にねじ込んでいく
どこからか引っ張られてでもいるような頭痛が襲う低気圧来る
梅の花咲いた坂道下がりつつ明日のことはいま考えず