繰り返す「なぜ」をとどめて成長という大人らの内に我も含まれ世の中は疑問だらけであることは知っているのに知らぬふりするとびきりのはてなを持てる嬉しさを教えてあげよう若いあなたに毎日を当たり前という毒に麻痺させていることに目覚める
やり残す仕事の多さ悔いる間もなく去る弥生晦の空新しい職場に行くという人のために桜はすでに九分咲き
早春の公園歩く抱え持つ荷物の重さ暫し忘れて
一昨年もこの梅を見に来たことを思い出す時花びらは舞うなに一つ変わっていないと思っても本当はすべてが移ろっていて進歩などたやすく言ってほしくない花びら頬をかすめ流れる梅の花この庭に咲き我が胸の若き思いを揺らし続ける
昼長くなり行く日々に耳鳴りの如く囁く白髪の我
街角の小さな店に売れ残るおもちゃの箱の褪せたる写真
答え無き会話に耐へることできずとつくにこころ抜けだしてゐる 限りなき退屈といふ時重ね家庭の平和は保たれてゐる
いまだ土の中に潜める魂の目覚める時ぞ心して待て
繰り返しめくるカードに書かれたる単語を使ふ時やいつ来る
父の歌 もう一冊と娘がせがむ絵本には同じ結末待つと知らずや 娘の歌 結末が同じと誰が決めたのよ読むまでそれは分からないのよ
外堀も内堀だにも埋められて大阪城はビルに囲まれ
あと何歩進めば次の平なる所に着くか今は進まん
真実を見ている気持ちになりつつも眼鏡の曇り気にしてもゐる
路上にて拾ひし蝉を手に持ちて橋渡り来る老婆過ぎゆく 油蝉はかなき生の尽きるまで鳴きに鳴きゆき死にに死にゆき 空蝉を集める子供満杯の虫籠の中動かぬ形 瞬間を観る事なかれ命つぐその中にこそ悲しみもあれ
今といふ枷から逃げて行く先は見慣れた狭い穴蔵の中
切り替えて別の電車に乗ることをためらつてまた乗る日常に
早朝に地震速報鳴動し凍りつきたる淡き日常毎日の積み上げきたる生業を瞬時に崩す地震といふもの禍々し神の来りて笑みたるかそも愚かなる人の迷ひか気がつけば積み木の上に生きてをりそを人生と人は言へるを
列島を覆ひ尽くせる台風の目やは見るらむ人の小ささ係争のありやなしやは知らねども孤島も嵐に巻き込まれつつ風神の現れ出づる禍つ神吹き飛ばさるは善と限らず
終点に向ふホームの端照らす青き光の冷え冷えとして
いくらでも変わりうる我が可能性信じることを支へにしたり
何のため手習などを始むると自問自答の日々は続きぬ恐らくは成長のなき毎日に倦みて疲れて手習に逃ぐ目的は恐らくはなしあるならばそは自らの生の確認生きている証にせんと今日よりは違ふ何かを明日に求む
美しく老いる術とは何なのか自己撞着の罠に落ち込む老いる術書きたる本の平積みの嘲るごとく笑む著者の顔恐らくは死ぬ間際にて悟るべしいかに生きるかいかに過ごすか標なき細き径を歩み行くつひに歩けぬ時となるまで
結局は自分の位置からしか見えぬ世界は天動説のまま過ぎ行ける 細々としたこと争ふ愚かさとおそらく思はむ例えば神は 同じくは諦めるより明らめて世界を固定せんとあがけり 自らの位置さえ知らぬものゆゑに動くは天かそれとも我か
様々な模様のありて並びたるタイルのごとく流れ行く時
生命の栄えゆきたる新緑の中にも差せる淡き面影
かすれゆく声をいとはず言ひゆかん伝えることの尽きぬ限りは
年玉を渡すものなきつれづれを親にさせたる心の痛み
それぞれの暮らしの外輪示しつつ人は生業積み重ねゆく
混乱と破壊の前の静けさよ運命論など考えてをり
様々な人の過ぎ行く胸のうちコマ送りする遠き思ひ出